2007-08-03

内と外

内と外を区別することが生命にとって重要なことであり、かつ医療にとっても解明するべきポイントとなりつつあることが「新しい薬をどう創るか」(ブルーバックス)で述べられている。
生体膜は単なる脂質の膜ではなく、液状の物質を仕切るとともに、特定の物質を透過させたり、外界の情報を感知するなど特殊な機能をもっているそうだ。膜たんぱく質の立体構造分析に対しては最近の20年間に3度ものノーベル賞(光合成、ATP合成酵素、イオンチャネル)が与えられたことから、研究の重要性と難易度の高さが覗える。
そして、ヒトゲノム情報のなかでもGタンパク質共役型受容体(GPCR)は細胞膜を7回貫通する特徴的な分子構造を持った、薬物治療標的としては最も重要なものということだ。ヒトゲノムには約700~800のGPCR遺伝子が存在すると考えられているが、現在までにその中で約150のGPCRでのみ受容体を活性化する物質(リガンド)との対応が見つかっているだけという状態だそうだ。残りのGPCRはリガンド、生理的機能が不明な受容体(オーファン受容体)で、新規の創薬標的となる可能性が高いことから、重要な研究分野となっている。
しかし、膜輸送は生体膜を研究対象としているだけに、現在利用できる測定ツールは放射性元素、光学プローブ、電流測定の3つだけである。これがスクリーニングするうえで非常に手間がかかり、研究スピードの上がらないひとつの原因でもあるそうだ。
ところで、この7回貫通するという表現を見た瞬間、あの有名な「ケーニヒスベルグの7つの橋問題」をなぜか思い出した。何の根拠もなく、内と外を確実に貫通する通路としてGPCRは神秘的な7という数を持っており、一筆書きのように一気に情報の伝達をおこなうというイメージを持った。